2013年 11月 14日
話し聞き本舗~第五話 |
「桃子さん、寒いですか。もし寒かったら窓閉めますけど」
「大丈夫よ、白石君。ドライブなんて久しぶり。免許取ろうって、いつも思っていたんだけどね、いつのまにかこんな年になっちゃった」
「僕、ドライブのとき、基本的に窓全開するの好きなんですよね。高速乗る時はさすがに窓閉めますけど。風を感じるというか、その土地の匂いをかぐというか。その土地によって空気、違うじゃないですか。同じ東京でも、新宿と中野じゃ違うじゃないですか。なんかそんなの感じていたくて、車乗る時くらいは。いや、車だからかな。車だとちょっと前に感じた匂いがだんだん変わってゆくのが分かるから。電車だとそこらへんの微妙な変わり具合が分からないんで」
「なんか、ロマンチックな話しね。私、タクシーくらいしか乗らないから、よくわからないけど、でもこうやって車であてもなくドライブするの好きよ」
香坂桃子と会うのは二回目だ。初めて会ったときから、一週間が経った。
待ち合わせ場所に俺は車で向かった。とはいえ、俺の車じゃなくレンタカーだ。
昨日の夜、テレビをつけたら、可愛いお天気お姉さんが今日はお出かけ日和だと言っていた。
その予想通り、朝起きて窓を開けると、気持ちのよい風が舞い込んで来て、空をみると雲一つなかった。
今日のデートはドライブにしようと、そのとき思った。
お客さんと会う日を俺はデートと呼ぶ。だから、それなりに心はうきうきするし、恋人気分も味わえる。でも、仕事は仕事でちゃんとする。あくまでも気分的な問題だ。
ということで、朝、車を借りに行って、午後からのデートに備えたというわけだ。
「桃子さん、とりあえず腹ごしらえしましょうか」
「そうね。私の好きな物でいいかな」
「もちろんです。桃子さんの好きな物で」
「それじゃ、あそこ」
「あそこですか。ファーストフード店じゃないですか。いいんですか、あそこで」
「ドライブスルーでお願い」
俺の頭の中には洒落たフレンチレストランなんて、勝手に頭に浮かべていたから、まさかのファーストフード店だ。しかも、ドライブスルー。まあ、コンビニよりよっぽどましだけど。
「白石君、そんな顔しないの。すぐ顔にでるのね白石君て。とりあえず食べてみなさいよ。車の中で食べるのって美味しいんだから。私は食べるわよ」
「ハンバーガーを口を大きく開けて頬張る桃子さんも嫌いじゃないですよ」
「白石君も食べなさいよ。冷めちゃうわよ。温かい物は温かいうちに」
「なんか、おかんみたいだな。それに桃子さん、ハンバーガーに冷めるはないんじゃないですか」
「まあいいじゃない、そんなことは。それよりも美味しいでしょ。車の中だからかな、それともドライブスルーだからかな。美味しいでしょ」
「そんなのどっちでもいいんだけど。でも確かに美味しいや。コーラも久しぶりで美味しいや」
「それじゃあ、今度はラジオでもつけようか。そうね、ここらへんなら基地放送聴けるんじゃないかな。やっぱり英語。ドライブスルーといえば、洋楽」
ちょうど流れていた曲は、10年くらい前に流行っていた曲だった。二人とも知っていたので、お互いにその曲が流行っていた頃の思い出を語り合う。
桃子は10年前の思い出を懐かしそうに振り返る。あのころ、私はもっとやせていたのよとか、当時の自分の若かりし頃を頭に浮かべているのだろうか。
俺はといえば、あいつの事を思い出してしまうが、すぐあいつのイメージを頭から消去し、再び桃子の表情を見る。まあ、あいつとよく一緒に聞いた曲だからしょうがない。
会話とは一種のゲームであると、楓さんは言う。そして、そのゲームの攻略法はないという。こうやればいいとかはないということだ。だから、誰かがあなたの真似をしようとしても、絶対にできないとも言う。それは、俺がもっている人柄とか、あるいは表情、体つき、いろいろなものがそれは生まれもってのものや、環境によってそうなったもの、とにかく楓さんいわく、この分野では俺に太刀打ちできる人間は存在しないみたいだ。
俺は野球が好きだったから、できれば野球で頂点を極めたかったのだが…
written by YORIZO
「大丈夫よ、白石君。ドライブなんて久しぶり。免許取ろうって、いつも思っていたんだけどね、いつのまにかこんな年になっちゃった」
「僕、ドライブのとき、基本的に窓全開するの好きなんですよね。高速乗る時はさすがに窓閉めますけど。風を感じるというか、その土地の匂いをかぐというか。その土地によって空気、違うじゃないですか。同じ東京でも、新宿と中野じゃ違うじゃないですか。なんかそんなの感じていたくて、車乗る時くらいは。いや、車だからかな。車だとちょっと前に感じた匂いがだんだん変わってゆくのが分かるから。電車だとそこらへんの微妙な変わり具合が分からないんで」
「なんか、ロマンチックな話しね。私、タクシーくらいしか乗らないから、よくわからないけど、でもこうやって車であてもなくドライブするの好きよ」
香坂桃子と会うのは二回目だ。初めて会ったときから、一週間が経った。
待ち合わせ場所に俺は車で向かった。とはいえ、俺の車じゃなくレンタカーだ。
昨日の夜、テレビをつけたら、可愛いお天気お姉さんが今日はお出かけ日和だと言っていた。
その予想通り、朝起きて窓を開けると、気持ちのよい風が舞い込んで来て、空をみると雲一つなかった。
今日のデートはドライブにしようと、そのとき思った。
お客さんと会う日を俺はデートと呼ぶ。だから、それなりに心はうきうきするし、恋人気分も味わえる。でも、仕事は仕事でちゃんとする。あくまでも気分的な問題だ。
ということで、朝、車を借りに行って、午後からのデートに備えたというわけだ。
「桃子さん、とりあえず腹ごしらえしましょうか」
「そうね。私の好きな物でいいかな」
「もちろんです。桃子さんの好きな物で」
「それじゃ、あそこ」
「あそこですか。ファーストフード店じゃないですか。いいんですか、あそこで」
「ドライブスルーでお願い」
俺の頭の中には洒落たフレンチレストランなんて、勝手に頭に浮かべていたから、まさかのファーストフード店だ。しかも、ドライブスルー。まあ、コンビニよりよっぽどましだけど。
「白石君、そんな顔しないの。すぐ顔にでるのね白石君て。とりあえず食べてみなさいよ。車の中で食べるのって美味しいんだから。私は食べるわよ」
「ハンバーガーを口を大きく開けて頬張る桃子さんも嫌いじゃないですよ」
「白石君も食べなさいよ。冷めちゃうわよ。温かい物は温かいうちに」
「なんか、おかんみたいだな。それに桃子さん、ハンバーガーに冷めるはないんじゃないですか」
「まあいいじゃない、そんなことは。それよりも美味しいでしょ。車の中だからかな、それともドライブスルーだからかな。美味しいでしょ」
「そんなのどっちでもいいんだけど。でも確かに美味しいや。コーラも久しぶりで美味しいや」
「それじゃあ、今度はラジオでもつけようか。そうね、ここらへんなら基地放送聴けるんじゃないかな。やっぱり英語。ドライブスルーといえば、洋楽」
ちょうど流れていた曲は、10年くらい前に流行っていた曲だった。二人とも知っていたので、お互いにその曲が流行っていた頃の思い出を語り合う。
桃子は10年前の思い出を懐かしそうに振り返る。あのころ、私はもっとやせていたのよとか、当時の自分の若かりし頃を頭に浮かべているのだろうか。
俺はといえば、あいつの事を思い出してしまうが、すぐあいつのイメージを頭から消去し、再び桃子の表情を見る。まあ、あいつとよく一緒に聞いた曲だからしょうがない。
会話とは一種のゲームであると、楓さんは言う。そして、そのゲームの攻略法はないという。こうやればいいとかはないということだ。だから、誰かがあなたの真似をしようとしても、絶対にできないとも言う。それは、俺がもっている人柄とか、あるいは表情、体つき、いろいろなものがそれは生まれもってのものや、環境によってそうなったもの、とにかく楓さんいわく、この分野では俺に太刀打ちできる人間は存在しないみたいだ。
俺は野球が好きだったから、できれば野球で頂点を極めたかったのだが…
written by YORIZO
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by john-yorizo
| 2013-11-14 13:58
| 小説